きょうだいの「不公平」は、金額では消えません
お手伝いにポイントを付ける仕組みを家庭に入れると、きょうだいがいる家ではほぼ確実に「不公平だ」が出ます。そして多くの場合、金額をそろえても収まりません。この記事では、なぜ金額では解決しないのか、そろえるべきものは何なのか、そして年齢差を仕組みのどこで吸収すればいいのかを、仕組みの作りに沿って整理します。
この記事の書き方について。筆者の家庭は子どもがひとりなので、きょうだいでの運用を実際に試したわけではありません。ここに書いているのは、複数のお子さんを想定してこの仕組みをどう作ったかという設計側の説明と、その作りから導ける組み立て方です。実際に家庭で試した話はお手伝いの「値段」は、あとから直していいなどの記事にあります。
「同じにする」では、不公平はなくならない
きょうだいで報酬制を始めるとき、多くの親がまず考えるのは「差をつけないようにしよう」です。同じお手伝いには同じ金額。これは一見いちばん公平に見えます。ところが、実際にやってみると次のどちらかが起きます。
ひとつは、上の子がやらなくなるパターンです。小学2年生が15分かけてやる風呂掃除を、中学生は5分で終わらせます。同じ金額なら、上の子の時給は3分の1です。上の子は割に合わないと感じ、そのうち手を出さなくなります。
もうひとつは、下の子が競争に負け続けるパターンです。早い者勝ちにすると、速くて手際のいい上の子がほとんど取っていきます。下の子のポイントはいつまでも増えず、「どうせ勝てない」と離脱します。
つまり、同じにしたことが不公平を生んでいるわけです。年齢も体力も手際も違う相手に同じ物差しを当てているので、当然といえば当然です。それでも「差をつけるとけんかになる」と思って、多くの家庭が同じにする方を選びます。
ここでもうひとつ厄介なのは、子どもが問題にしているのは、たいてい金額そのものではないことです。「なんで兄ちゃんばっかり」という言葉の中身は、よく聞くと「兄は特別扱いされている」「自分の言い分は聞いてもらえない」であることが多い。金額を1円単位でそろえても、この感覚は消えません。
そろえるのは金額ではなく、手続き
ここで効いてくるのが、金額ではなく手続きをそろえるという発想の転換です。そろえるのは次の3つです。
- 申請のしかたが同じであること。ごほうびが欲しいときは、上の子も下の子も同じように理由を書いて申請する
- 決裁のされ方が同じであること。親は誰に対しても、承認・却下・条件提示の3つから選ぶ。「下の子だから通す」をやらない
- 記録の残り方が同じであること。誰が何をして、いくらもらって、何に使ったかが、同じ形で残る
この3つが守られていれば、金額に差があっても不公平の訴えは起きにくくなるはずです。理由は単純で、「自分にも同じ手続きが用意されている」ことが確認できるからです。会社で給料に差があっても、評価の手続きが同じなら暴動が起きないのと同じ構造だと思っています。
逆に、いちばんやってはいけないのがその場の気分で例外を作ることです。「今日は下の子が泣いたから特別に承認」を一度やると、以後すべての決裁が交渉ではなく泣き落としの対象になります。条件を付けて返すのは構いませんが、手続きを飛ばさないことだけは守ったほうがいいです。
年齢差は「レート」ではなく、クエストの中身で吸収する
では、年齢差はどこで吸収すればいいのか。ここは仕組みの作りに関わるので、先に事実を書いておきます。
RingiQuest のポイントは「想定時間 × 基本レート × 難易度」で決まります。そして基本レートは家族にひとつです。子ごとに時給を変えることはできません。これは意図的にそうしてあります。子ごとにレートを持てるようにすると、「なんで自分のほうが安いのか」という、いちばん答えにくい問いを毎回突きつけられることになるからです。
その代わり、差がつくのはクエストの側です。つまり、
- 想定時間で差をつける。同じ「洗濯物をたたむ」でも、下の子は10分、上の子は5分と見込む
- 難易度で差をつける。下の子にとっては「むずかしい」、上の子には「かんたん」
- そもそも別のクエストにする。「タオルをたたむ(下の子)」と「洗濯物を全部たたんでしまう(上の子)」は、別の仕事だと考える
いちばん素直なのは3つ目です。名前が違えば、金額が違っても「別の仕事だから」で説明が付きます。同じ名前のクエストで金額だけ違うと、その差が人の値段の差に見えてしまいます。ここは受け取られ方がかなり変わるところです。
なお、想定時間は最初から当てようとしなくて大丈夫です。実際にかかった時間は記録として残るので、後から見直せます。この見直し方についてはお手伝いの「値段」は、あとから直していいに詳しく書きました。
同じお手伝いを分け合う3つの型
日々の運用でいちばん悩むのが、ひとつしかない用事をどう分けるかです。食器洗いは1日1回しかありません。使えるやり方は、だいたい次の3つに整理できます。
型1: 曜日で分ける。月水金は上の子、火木土は下の子、日曜は休み。いちばんもめません。くり返しの設定で担当を分けて登録しておけば、あとは毎日自動で本人の画面に出ます。難点は、予定が入った日に穴が空くこと。塾や部活の日は最初から外して組むのがコツです。
型2: 担当を固定する。食器は上の子、風呂は下の子、というように仕事ごとに持ち主を決めます。責任の所在がはっきりするので「やったのに取られた」が起きません。ただし飽きます。1〜2か月で入れ替えると新鮮さが戻ります。
型3: 担当を決めずに置く。担当を空にしたクエストは、お子さん全員の画面に出ます。早い者勝ちです。手が空いている子がやればいいので効率はいちばん良い一方、年齢差があるときは上の子が総取りしがちです。使うなら、上の子だけができる仕事と併用して、下の子にも取り分が残る形にしてください。
扱いやすいのは、型1を土台にして、突発のものだけ型3で置くという組み合わせです。日常はぶつからず、余った用事は手が空いた子が拾える形になります。
では、2人で1つの仕事を一緒にやったときはどうするか。これも必ず出てくる場面です。ひとつのクエストを2人で分けると必ず「自分のほうが多くやった」でもめるので、素直なのは最初から2つのクエストに分けておくことです。「机の上を片づける」と「床に掃除機をかける」なら、同じ部屋の掃除でも取り分がはっきりします。
分けようがない仕事——たとえば2人がかりでソファを動かすような——については、クエストにせず、あとから手動でポイントを足すやり方が現実的です。保護者はいつでも任意のポイントを増減でき、そのときに理由のメモを残せます。「ソファの移動を2人で。ありがとう」と書いておけば、履歴を見返したときにも経緯が分かります。すべてをクエストの形に押し込もうとしないほうが、仕組みは長持ちします。
見えること・見えないことを設計する
きょうだい運用では、何が見えるかが空気を左右します。RingiQuest の現在の作りはこうなっています。
- クエストの一覧には、自分が担当のものと、担当が決まっていないものだけが出ます。きょうだいが担当のクエストは、お子さんの画面には並びません
- ポイントや役職ランクは、家族の中では見られます。誰がどれくらい貯めているかは隠していません
一覧を絞ってあるのは、自分に関係のない用事が混ざると見づらいからで、隠すためではありません。一方でポイントを隠していないのは、家庭は組織ではなく、隠しても結局ばれるからです。夕食の席で「今いくら貯まってる?」と聞けば分かってしまう情報を、システムだけが秘密にしても意味がありません。
ただし、見えることと、比べさせることは別です。運用で気をつけたいのは次の2点です。
- 親がきょうだいの数字を並べて言わない。「弟は今週5個やったのに」は、いちばん効かない言い方です
- 比べるなら、他人ではなく過去の自分と。連続日数や累計は、本人の中でだけ増えていく数字です
役職ランクを、きょうだいでどう扱うか
RingiQuest には、累計ポイントに応じて役職が上がっていく仕組みがあります。残高は使えば減りますが、累計は減りません。これがきょうだい運用では効きます。ごほうびに使ってしまった子が、使わなかった子より下に見えるということが起きないからです。
一方で、正直に書いておくべき制約もあります。ランクの基準ポイントは家族にひとつで、子ごとには設定できません。つまり後から始めた下の子は、上の子にどうやっても追いつけません。累計は減らない数字なので、先に始めたほうが必ず上にいます。
これを問題にしないための考え方は2つあります。ひとつは、ランクを競争ではなく在籍年数のようなものとして扱うこと。「お兄ちゃんのほうが長くやっているから上」は、子どもにも納得しやすい理屈です。もうひとつは、役職の名前を家庭に合わせて変えてしまうこと。段位でも、探検隊の階級でも、家庭の中で通じる呼び名なら何でも構いません。呼び名を家族で決める作業自体が、けっこう盛り上がります。
なお、ランクが下がったときは何の演出も出しません。上がったときだけ知らせます。下がったことをきょうだいの前で通知するのは、いちばんやってはいけないことだと考えたからです。
もめやすい場面と、その処理
「やろうと思ってたのに取られた」
担当を決めていないクエストで必ず起きます。処理は簡単で、もめた仕事から順に担当を固定していくことです。全部を先に決める必要はありません。もめたものだけ決めれば、そのうち落ち着きます。
「あっちのほうが楽な仕事なのに同じ金額」
これは実際に正しいことがあります。想定時間が実態と合っていないだけなので、記録を見て直せばいい話です。「じゃあ来週から見直そう」と言えると、不満が仕組みの改善に変換されます。感覚の言い合いにしないことが大事です。
「上の子がいつも下の子に譲ってしまう」
これもよく起きる形です。上の子が気を使って手を出さなくなり、結果として上の子のポイントだけ増えないことがあります。この場合は、上の子にしかできない仕事を作るのが早いです。買い物を任せる、下の子の宿題を見る、ゴミを出す日を管理する。難易度が上がるぶん対価も上がるので、譲る余地がありません。
「下の子がまだ字を読めない」
未就学のお子さんが混ざる家庭では、これが最大の壁です。表示の言葉づかいはお子さんごとに3段階から選べるので、いちばんやさしい設定にすると、ひらがな中心の表示になります。それでも読めない年齢なら、親の端末から代わりに完了報告をしてあげる使い方でも構いません。記録さえ残れば、仕組みとしては成立します。
人数が増えるとき・減るとき
最後に、実務的な話をひとつ。家族の構成は変わります。
お子さんは設定からいつでも追加できます(保護者の PIN が必要です)。人数は最大5人まで。名前は本名ではなくニックネームを推奨しています。
使わなくなったプロフィールは、削除ではなく「無効にする」で片づけます。無効にしてもこれまでのポイント・完了記録・稟議の履歴は消えません。一覧や担当者の選択から見えなくなるだけで、あとで元に戻せます。上の子が高校生になってアプリを卒業しても、下の子が使い続けている家庭では、記録を残したまま静かに退場できる形が要ります。
なお、保護者のプロフィールは家族にひとつです。ご両親がお二人で使う場合は、同じ保護者プロフィールにそれぞれの端末を紐づけてください。稟議を「保護者に上げる」という形にしている都合で、決裁する側が分かれていない作りになっています。
まとめ——公平とは、同じ金額のことではない
きょうだいでポイント制を回すときの要点を、5つに整理します。
- 金額をそろえない。年齢が違えば時間も手際も違う。同じにすると必ずどちらかが損をする
- 手続きをそろえる。申請のしかた・決裁のされ方・記録の残り方は全員同じにする
- 差はクエストの中身で付ける。できれば名前ごと分けて、別の仕事にしてしまう
- 担当は、もめたものから固定していく。最初に全部決めなくていい
- 比べるなら、きょうだいではなく過去の自分と。累計と連続日数はそのための数字
条件を付けて返す決裁のしかたそのものについては「承認」より効いたのは「条件交渉」でしたに、対価の決め方の土台はお手伝いのおこづかい、いくらが正解かに書いてあります。きょうだい運用は、この2つが先に安定していると格段に楽になります。
最後にひとつだけ。不公平の訴えが出るのは、仕組みが機能している証拠でもあります。どうでもいい仕組みには、誰も文句を言いません。文句が出たら、そのぶんだけ真剣に参加してくれているということなので、金額の話ではなく手続きの話として受け止めてみてください。
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