「言われないとやらない」を、言わずに変える
言われたことはやる。でも言われないと動かない。ここに悩んでいるご家庭は多いと思います。この記事では、指示待ちは性格ではなく、家庭に「提案する窓口」がないだけかもしれないという見方を紹介します。子どもの側からお手伝いやごほうびを出してもらい、親がそれに応える——その運用を、具体的な手順と失敗例つきで書きます。
「指示待ち」は性格ではないかもしれない
「うちの子は言われないとやらない」という言い方には、暗に「そういう性格だから」という含みがあります。でも、少し考えてみると不思議です。同じ子が、ゲームでは誰にも言われずに攻略情報を調べ、友達との約束は言われなくても守り、好きなことなら段取りまで自分で組んでいたりします。
つまり、自発的に動く能力が無いわけではない。家の仕事に対してだけ発動しない。ここには理由があるはずです。
いくつか思い当たることを挙げると、
- 何が「やるべきこと」なのか、本人には見えていない。家事の全体像を持っているのは、たいてい親だけです
- 勝手にやると怒られた経験がある。よかれと思って洗濯物をたたんだら「たたみ方が違う」と言われた、など
- やっても気づかれない。気づかれないなら、やってもやらなくても同じです
- 提案しても通らない。「これやったらポイントちょうだい」に対して「そんなの当たり前でしょ」で終わる
どれも子どもの性格の話ではありません。環境の話です。そして環境なら、変えられます。
家庭には、提案を出す窓口がない
会社を思い浮かべてみてください。新人が「この作業、こうしたほうがいいと思います」と思ったとき、それを出す先があります。上長に相談する、起案する、会議で言う。形式はどうあれ、受け取る窓口が用意されています。そして提案は、通ることもあれば、条件付きで通ることも、通らないこともある。どれになっても、少なくとも検討はされます。
家庭には、この窓口がありません。子どもが何かを思いついたとき、それを出す方法は「口で言う」しかない。しかも口で言った提案は、たいてい親が忙しい瞬間に、いちばん受け取りにくい形でやってきます。台所で手が離せないときに「ねえ、これやったらポイントもらえる?」と言われて、丁寧に検討できる親はそう多くありません。
その結果、提案は却下ではなく黙殺されます。子どもの側から見ると、これがいちばん学習に効きます。「言っても無駄」は、「言ったら怒られた」よりも強く定着します。
提案を受け取る仕組みを作る
RingiQuest では、お子さん自身がクエストを作れます。ただし、作った時点では確定しません。「提案」という状態で保護者のところに届き、保護者が中身を見て確定させる形です。
流れはこうです。
- お子さんがクエストを作る。タイトル、想定時間、難しさなどを自分で入力します
- 保護者に届く。提案として一覧に並びます
- 保護者が決める。承認して正式なクエストにするか、メモを添えて差し戻すかを選びます
- 承認するときに、最終的な内容を決められます。対価、担当、承認制にするかどうかなどは保護者側で調整できます
ポイントは、提案が「受理された」ことが目に見えることです。口で言った提案は消えますが、画面に出た提案は消えません。親が忙しくて即答できなくても、提案はそこに残っています。黙殺が構造的に起きにくくなるのが、この形のいちばんの効用だと思っています。
差し戻した場合は、お子さんのホーム画面のいちばん上に「やること」として出ます。下部メニューにも件数のバッジが付くので、別の画面を見ていても気づけます。返事をしたことが確実に伝わるようにしてあるのは、返事が届かないと提案そのものが止まってしまうからです。
ごほうびの側からも提案してもらう
提案してもらえるのは、お手伝いだけではありません。ごほうびの側からも提案できます。
ごほうびは通常、保護者が用意したカタログから選んで申請します。ただ、カタログに載っていないものを欲しがるのは当たり前のことです。そこで、カタログにないものを自由に書いて申請できるようにしてあります。「友達の家に泊まりたい」「金曜の夜だけ夜更かししたい」といった、一度きりの、リストには載せにくい願いです。
このとき申請は、通常のごほうびとまったく同じ決裁の流れに乗ります。承認・却下・条件提示のどれかで返せます。特別扱いしないことが大事で、「そういうのはルール外だから」と手続きの外に出してしまうと、結局は口頭のおねだりに戻ります。
なお、自由記述の申請は、申請の時点では残高が足りているかを見ません。判定は承認するときに行います。「まず言ってみる」ができる状態を残しておくためです。
最初の1件が出るまでにやること
仕組みを用意しても、勝手に提案が湧いてくるわけではありません。むしろ最初の1件が出るまでがいちばん時間がかかります。効いたことを挙げます。
1. 「提案していい」と明示的に言う。これが抜けている家庭が多いと思います。窓口があることを知らない人は、窓口を使いません。「思いついたお手伝いがあったら、自分で登録していいよ」と一度はっきり伝えてください。
2. 最初の1件は、通す前提で待つ。内容が多少ずれていても、初回は承認する方向で考えます。1件目で差し戻すと、2件目はまず出てきません。
3. 親が「これ、提案してくれない?」と頼む。やや反則ですが有効です。「明日の朝の水やり、自分で登録してみて」と言うと、操作の練習になります。手順を一度覚えれば、次からは自分で出せます。
4. 出てきた提案には、当日中に返事をする。これがいちばん大事です。返事が遅い窓口は使われなくなります。詳しくは後述しますが、提案が止まる原因は、たいてい子どもではなく親の側にあります。
それでも出てこないときに疑うこと
窓口を用意し、使っていいと伝え、それでも1件も出てこないことがあります。そのときに疑う点を5つ挙げます。
1. そもそも何が家の仕事なのかを知らない。これがいちばん多いと思います。子どもから見える家事は、目の前でやっているところを見たものだけです。ゴミ袋の交換、洗剤の詰め替え、シーツの洗濯、電池の買い置き。存在を知らない仕事は提案できません。一度、家の中の仕事を親子で数え上げてみると、それだけで提案が出るようになることがあります。「こんなにあるの」と驚かれるのが、たいていのご家庭での反応です。
2. すでにある定番のクエストで埋まっている。毎日のくり返しが5つも6つも入っていると、新しいことを考える余白がありません。提案してほしいなら、枠を空けておく必要があります。
3. 貯める理由がない。ポイントを使う先が決まっていないと、増やす動機も生まれません。ごほうびのカタログが空だったり、欲しいものが無かったりしないか確認してみてください。
4. 提案の操作が分からない。意外な盲点です。一度も一緒にやったことがなければ、どこを押せばいいか分かりません。最初の1件は、隣で一緒に登録してみるのが確実です。
5. 過去に否定された記憶がある。アプリを入れる前の話であっても、これは効いています。時間がかかりますが、こちらから頼んだ提案を確実に通すところから積み直すしかありません。
差し戻し方を間違えると、二度と出てこない
提案には、当然ながら通せないものも混ざります。「ゲームすることをお手伝いにする」「1分で終わる用事に高額を付ける」といった、笑ってしまうようなものも出てきます。ここでの返し方が、その後の提案数を決めます。
やってはいけないのは、提案そのものを否定することです。「そんなのお手伝いじゃないでしょ」で終わらせると、次から出てきません。差し戻しには、必ずメモを添えられるようになっています。使うべきなのは次にどうすれば通るかを書くことです。
- ×「これはお手伝いではありません」
- ○「自分の部屋の片づけは対象外にしているけど、リビングの片づけなら通せます」
- ×「高すぎます」
- ○「3分で終わる用事なので、5ポイントくらいが相場です。時間を直して出し直してみて」
後者の書き方をしていると、子どもは相場を学習します。2〜3回やりとりすると、だいたい妥当な提案が出てくるようになります。これは差し戻しが教育の機会になっている状態で、条件を付けて返す決裁と発想は同じです(「承認」より効いたのは「条件交渉」でしたに詳しく書きました)。
もうひとつ。差し戻しは失敗ではないということが、見た目からも伝わるようにしてあります。赤い警告のような表示にはしていません。会社の稟議でも、一度で通ることのほうが珍しいはずです。
値段を自分で付けさせない理由
提案の仕組みを作るとき、ひとつ決めたことがあります。お子さんが提案したクエストの対価は、お子さんの希望額をそのまま採用しないという点です。想定時間と難しさから自動的に計算し、最終的な金額は保護者が承認するときに決めます。
これは子どもを信用していないからではありません。値段を自分で決められる仕組みにすると、提案の中身が「何をやるか」ではなく「いくらもらえるか」に寄ってしまうからです。そうなると、せっかくの提案が値段交渉の入り口になってしまい、家事を見つける練習という本来の価値が薄れます。
同じ考えで、実際にかかった時間も対価には反映していません。だらだらやったほうが儲かる仕組みにはしていない、ということです。時間の記録は、あくまで後から相場を見直すための材料として使います。
その代わり、提案の内容そのものには口を出しすぎないようにしています。金額は親が決める、中身は子どもが決める。この分担がいちばん収まりが良いと感じています。
実際に出てきた提案と、そこから分かること
提案を受け取るようになって面白かったのは、子どもが何を「仕事」だと思っているかが見えることでした。
たとえば、親から見ると当たり前すぎて依頼したことすらない用事が提案に上がってきます。逆に、こちらが重労働だと思っていた作業がまったく出てこないこともあります。前者は「本人にとっては面倒だが、頼まれていないのでやっていなかった仕事」で、後者は「本人にとっては苦ではない仕事」です。この2つが分かるだけで、日々の依頼のしかたが変わります。
もうひとつよくあるのが、提案が来る時間帯に偏りがあることです。宿題をやりたくない時間に提案が増える、というのは笑い話ですが、裏を返せば「他にやることがあるときのほうが、家の仕事が魅力的に見える」という当たり前の事実でもあります。ここは目くじらを立てるところではないと思っています。動機が不純でも、家は片づきます。
そして、提案が止まったときは、たいてい親の側の問題です。決裁が溜まっている、返事が遅い、そもそもアプリを開いていない。提案数は、家庭の意思決定が回っているかどうかの、けっこう正直な指標になります。
まとめ——動かないのではなく、出し先がなかった
要点を5つに整理します。
- 指示待ちは性格ではなく環境。好きなことでは自分から動いている
- 家庭には提案の窓口がない。口頭の提案は、忙しい瞬間に届いて黙殺される
- 提案の1件目は通す。最初に差し戻すと2件目は来ない
- 差し戻すときは「次はこうすれば通る」を書く。否定で終わらせない
- 値段は親、中身は子ども。この分担が、提案を値段交渉にしない
その日の突発の用事をその場で記録する使い方については「いまゴミ出して」を、記録に残せるようにしたを、日々の運用全体の型はシチュエーション別の活用法をご覧ください。
最後にひとつ。提案が出てくるようになると、親の仕事は「指示を出すこと」から「判断すること」に変わります。これは、たぶん想像よりずっと楽です。何をやってほしいかを毎回言葉にするより、出てきたものに「いいよ」と答えるほうが、圧倒的に手数が少なくて済みます。
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